慎司たちは楠神社の社務所で宮司と向かい合っていた。慎司の頭の中には、御神木に関する謎が次々と浮かび上がっていた。
「封印が弱まりつつあるって、どういうことですか?」
慎司が尋ねると、宮司は困ったようにため息をつきながら答えた。
「御神木は長い間、この町の人々に恩恵を与えてきました。しかし、その力が強すぎるため、適切に封印しないと、人々の心に影響を及ぼしてしまうのです。」
「影響って、具体的には……?」
慎司の問いに、宮司は少し考え込むように間を置いた。
「封印が弱まると、御神木の力が暴走し、人々の感情や記憶に干渉し始めます。その結果、過剰な幸福感や安心感を与えることもあれば、逆に不安定な精神状態を引き起こすこともあります。」
慎司は思わず眉をひそめた。「感情や記憶に干渉する……?」
セリナが不安げな顔で口を挟む。「それって、特産品にも影響してるんですか?みんな、御神木のお茶やお菓子を楽しんでるけど……。」
宮司は静かに頷いた。「特産品を通じて御神木の力が広がることで、一部の人々には癒しや幸福を与えています。しかし、それが過剰になると依存を引き起こし、心のバランスを崩すことがあるのです。」

祠の存在と儀式の謎
慎司は宮司の言葉を聞きながら、御神木の異様な圧迫感を思い出していた。
「じゃあ、その封印をどうやって強化すればいいんですか?」
慎司が真剣な表情で尋ねると、宮司は重々しく答えた。
「封印を強化するには、古い儀式を行う必要があります。ただし、その詳細については古い記録が必要です。私たちもすべてを把握しているわけではありません。」
「記録ってどこにあるんですか?」
優菜が鋭い目で問いかけると、宮司は少し困ったように答えた。
「祠の周辺か、あるいは神社の倉庫に何か手がかりがあるかもしれません。」
慎司の決意
慎司は拳を握りしめながら立ち上がった。「分かりました。俺たちで祠を調べてみます。それで封印を強化する方法を探します。」
セリナが驚いた顔で慎司を見た。「ちょっと、慎司!あんた一人で勝手に決めないでよ。」
「そうだよ、危険なんじゃないの?」優菜も不安そうな顔を浮かべる。
しかし慎司は真剣な表情で答えた。「もし封印が弱まったままだと、この町全体が危険になるんだろ?だったら、やるしかない。」
宮司は静かに頷いた。「慎司さん……お気をつけてください。もし祠で何か異変を感じたら、無理をせず戻ってきてください。」
祠への足取り
その日の夕方、慎司たちは祠へ向かう山道を歩いていた。鬱蒼とした木々に囲まれた道は不気味な静けさに包まれている。
「なんか……空気が変だね。」
優菜が小声で呟くと、セリナが慎司の肩にそっと手を置いた。
「気をつけてね、慎司。」
慎司は振り返り、二人に笑顔を見せた。「大丈夫だよ。何とかなるさ。」
しかし、その笑顔の裏で、慎司の胸の中には重い不安が広がっていた。御神木が本当に人の「心」に干渉する存在なんだとしたら――。
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