想いはそこにある第12話

【ストレス解消の新習慣】読書が心を癒す理由、知ってる?

プロローグ〜第2話

1. 揺れる記憶と慎司の決意

慎司たちは、神社の社務所で宮司とともに古い文献を調べていた。

儀式を回避する方法はないのか——それがセリナと優菜の共通の願いだった。

「記憶を捧げる以外に、封印を維持する方法があるはず。」

セリナはそう言いながら、古びた文献をめくっていく。

宮司も深く頷きながら答えた。

「確かに、今の形の儀式がいつから始まったのかは明確ではありません。もっと昔の記録を見てみましょう。」

慎司は静かにページをめくっていたが、心の奥では焦燥感が募っていた。

(時間がない……このまま夜が明けたら、もう……。)

優菜もまた、慎司の表情の変化を見逃していなかった。

2. 「樹液の記憶」に関する文献の発見

しばらく文献を探していたセリナが、ある一文に目を止めた。

「……これって……」

彼女の指先が震えている。慎司が覗き込むと、そこにはこう記されていた。

——『御神木の樹液は、人々の想いや記憶を吸収し、蓄積する特性を持つ』——

——『一定以上の記憶を宿した時、御神木と同じ緑の光を帯び、儀式の依代となる』——

「つまり……」セリナが慎司を見た。

「御神木の樹液を使ったものが、十分な記憶を吸収すれば……儀式の代わりになるってこと?」

その時、優菜がふと顔を上げた。

「ねえ……それなら、楠の茶や楠の蜜菓子も依代になるんじゃない?」

「……え?」

慎司とセリナが同時に優菜を見る。

「だって、あれも御神木の力を使ってるんでしょ?」

優菜はノートをめくりながら続けた。

「町の人や観光客、すごくたくさんの人が飲んだり食べたりしてるし、それに記憶が蓄積されてるってことは……」

慎司は小さく息をつき、文献を指さしながら首を振った。

「……いや、無理だな。」

「なんで?」

優菜が少し不満げに眉をひそめる。

慎司がページをめくりながら説明する。

「文献にはこう書いてある。」

——『十分な記憶を蓄積するには、一万の民の記憶が必要である』——

「お茶やお菓子は、食べたら消えてなくなる。

記憶を蓄積するには、長期間そのものが存在し続けて、多くの人の目に触れる必要があるはずだ。」

「……そっか。」

優菜は小さくため息をついた。

すると、セリナが小さく息をのむと、慎司をじっと見つめた。

「……じゃあ、樹液を使って描いた絵ならどう?」

慎司はすぐに首を振った。

「そんなの今から描いても間に合わないだろ……。」

慎司が怪訝そうな顔をする中、セリナは静かに言った。

「——あるよ。」

3. セリナの記憶

「それは本当か!」慎司と宮司が同時に驚く。

「樹液を使って描いた絵が、私が開いたオープンアトリエの目玉になってるの。」

「……御神木の樹液って、発色がすごく綺麗だから、今回のオープンアトリエを開くときに、特別に分けてもらったんだ。」

慎司はその言葉に、僅かな希望を感じた。

(もしそれが十分な記憶を宿していたら……?)

「じゃあ、今すぐ確認しに行こう!」

セリナは立ち上がり、慎司もそれに続いた。

4. 希望と残酷な現実

アトリエに着くと、セリナは奥の部屋へと急ぐ。

「これ!この絵だよ!」

慎司が目を向けると、そこには幻想的な風景が描かれた大きなキャンバスがあった。

確かに、他の作品とは違う特別な雰囲気がある。

慎司は眉をひそめる。

「光ってはいる……けど、まだ記憶の蓄積が足りてない……?」

文献には一定以上の記憶を宿した時、御神木と同じ緑の光を帯び、儀式の依代となるとあった。

だが、目の前の絵はまだ、柔らかな黄色の光をまとっているだけで、完全な変化には至っていない。

慎司の胸に、わずかな焦燥感が広がっていった。

慎司が入場者記録を確認する。

「過去のデータを見ると……今までに来た人は約8000人か。」

「なら、あと2000人くらいに見せればいい……!観光客をたくさん呼び込めば、あと数日あれば条件を満たせると思う!」

セリナは嬉しそうに慎司を見た。

(……数日、か。)

(間に合わないな……。)

だが、慎司は答えなかった。

タイムリミットは……明日の夜明けだ……。

5. 記憶のフラッシュバック

「この絵がこんな形で役に立つなんて……。」

そう言いながら、彼女はそっと絵に手を伸ばした。

——その瞬間

「っ……!」

セリナの身体がピクッと震えた。

目を見開き、驚いたように息を呑む。

慎司はセリナの異変に気付き、慌てて声をかける。

「セリナ?どうした?」

だが、セリナは放心したように、まるで何かを見ているかのように絵に触れ続けている。

(何が……?)

慎司も思わず絵に手を伸ばした。

指先がキャンバスに触れた瞬間——視界が歪んだ。

次の瞬間、慎司の頭の中で、一つ一つの記憶が断片的に蘇っていく。

——子供の頃、セリナと駆け回った日々。

——秘密基地を作ったこと。

——夏祭りの夜、一緒に花火を見上げたこと。

——楽しかった町での日々。

そして——

セリナの笑顔が、鮮明にフラッシュバックした。

(ああ……俺は……。)

慎司の胸に込み上げるものがあった。

記憶の閃きが消え、現実に戻ると、慎司はゆっくりと手を離した。

「……これ……。」

慎司が呟くと、セリナもハッとしたように絵を見つめる。

「今、何か思い出した気がする……。」

慎司は何も言わず、ただ絵を見つめ続ける。

静かな沈黙の中で、慎司は覚悟を決めた。

セリナを守るために。

(俺が……やるしかない。)

6. それぞれの役割

「私、もっと観光客の人を呼び込んでもらえるように町のみんなに声かけてくる!」

セリナが立ち上がり、急いでアトリエを飛び出そうとする。

「俺は……宮司と優菜に報告してくる。」

慎司は静かにそう言った。

だが、心の中では決まっていた。

セリナが町へ向かうのを見届けた後、慎司は一人、神社へと向かう。

第13話へ続く 最終話まであと3話

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