因果応報 第4話 巡る因果

🌟 人生をより豊かにする8つの原理原則 🌟

納期ギリギリの案件は、なんとか無事に終わった。

「終わったぁ……」

西村は椅子に沈み込み、両腕をだらんと垂らす。新人もデスクに突っ伏している。

「お疲れ様!」

瀬乃が小さなペットボトルを配って回る。

「お前ら、片付けたら帰れよ。」

狩峰が短く言うと、部下たちは顔を上げて苦笑した。

西村が立ち上がると、周りもそれに続く。

「じゃあ、僕もそろそろ帰ります。」

新人がぺこりと頭を下げると、西村も続けて頭を下げる。

「じゃあ、お先です!」

部下たちは次々とオフィスを出ていった。

***

オフィスには狩峰と瀬乃だけが残った。

「……お前も、意外と無茶するよな。」

狩峰はペットボトルを回しながら、瀬乃の方をちらりと見る。

「うちのチームが手伝えたのは1日だけですけどね。」

「それに狩峰さんが困ってるのに、放っておけませんよ。」

瀬乃はさらりと言った。

「……そういや、お前が新人の頃もこんな感じで遅くまで仕事してたな。」

瀬乃の手が一瞬止まる。

「まぁ……そうですね。でも、狩峰さんがいたんで。」

瀬乃はすぐに笑って流すが、その目には少し懐かしさが混じっていた。

***

[回想シーン] 瀬乃の新人時代

瀬乃はデスクに向かい、険しい表情でキーボードを叩いていた。

モニターに映るタスク管理ツールは未完了のマークで埋め尽くされ、画面の端には「期限超過」の赤い文字がいくつも並んでいる。

焦る気持ちを抑えようと深呼吸をするが、心臓の鼓動は止まらない。

終わらせなければならない仕事が山積みで、今日も終電ギリギリまで残ることになりそうだった。

その時——

「新人、遅くまでご苦労さん。」

コーヒー片手に歩いてきた狩峰が、瀬乃のデスクの前で立ち止まった。

「あ、えっと、狩峰さん。お疲れ様です。」

瀬乃は慌てて背筋を伸ばす。

「……お前、随分しんどそうな顔してるな。」

「え、いや、そんなこと……」

狩峰は腕を組みながらデスクの上を見た。

積み重なった未処理の資料、整理されていないメールの通知——どう見ても仕事が回っていない。

「……で、仕事の進め方はわかるのか?」

瀬乃は言葉に詰まり、うつむく。

「いえ、さっぱりです……。」

狩峰はため息をつき、デスクの上にあった資料を手に取ると、瀬乃の前に放り投げた。

「これを読め。」

「……? これ……」

「仕事の流れをまとめた。お前が一からやり直せるようにな。」

瀬乃は驚いたようにページをめくる。

そこには業務の基本的な進め方や、クライアント対応のフローが細かくまとめられていた。

「……ありがとうございます。」

狩峰は何も言わずに視線を逸らし、ポケットからタバコを取り出した。

「で、お前の上司は誰だ?」

瀬乃は少し躊躇いながらも、意を決して名前を挙げた。

「……あいつか。」

狩峰はライターの火をつけ、静かに息を吐いた。

「あいつは差別がひどいからな。ろくに指導もせずに放置するクセに、ミスしたら部下のせいにするようなやつだ。」

瀬乃は無言で拳を握る。まさにその通りだった。

「……お前、明日からうちのグループで働け。」

「えっ?」

「異動の申請は俺が通しておく。」

「え、でも……。」

「お前、あいつの下にいたら、まともに仕事を覚えられねえだろ。」

狩峰は紫煙をくゆらせながら、ふっと口角を上げた。

「それに、仕事できそうなやつを埋もれさせるのは、こっちとしても惜しい。」

***

[現在]

「あの時、『私は』狩峰さんに救われたんですよ。」

瀬乃の声が少しだけ懐かしさを帯びていた。

狩峰はペットボトルを軽く回しながら、「そうかよ。」とぼそりと呟く。

***

「そういえばこの前電話してた、お前のクライアントって……」

「え? あ、分かりました?」

瀬乃はあっさりと認めた。

「やっぱりこの前飲みに行った時に迎えに来てた彼氏か。」

「そうです。学生時代の同級生でして。」

「今度、結婚するんです。」


狩峰は驚きこそしなかったが、少し目を見開く。

「そうか。それはめでたいな。」

「ありがとうございます。狩峰さんも、ぜひ結婚式にいらしてくださいね。」

「ああ。楽しみにしてるよ。」

瀬野は幸せそうな笑顔を浮かべた。




数週間後——。

カメラのシャッター音が響く。

白無垢に身を包み、柔らかい笑顔を浮かべる瀬乃。

その横で、スーツ姿の男性が嬉しそうに微笑んでいる。

— END —

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