想いはそこにある第14話

町の静寂と変化

宮司に会うため、社務所へ向かう道すがら、セリナはふと足を止め、辺りを見渡す。

市場の賑わい、子どもたちの笑い声、夜には家々からこぼれる暖かな灯り――。

御神木が放っていたただならぬ気配は消え、空気がどこか澄んでいる。

それでも、セリナにとって、この町は何かが決定的に変わってしまったように感じた。

「慎司がいないだけで、こんなにも町が違って見えるなんて……。」

電話をしても、メッセージを送っても、彼からの返事はない。

まるで最初からこの町には存在しなかったかのように、慎司は姿を消してしまった。

慎司がいなくなった理由は、一つしか考えられなかった。

――彼は 儀式を行ったのだ。

宮司との対話

社務所の扉を開けると、宮司が机の上に広げた古い文献を整理していた。

セリナの姿に気づくと、宮司は短く微笑んだ。

「セリナさん、どうしました?」

その穏やかな声に、セリナはまっすぐ目を向ける。

「慎司は……儀式を行ったんですね?」

宮司の手が止まった。

「それで、記憶を失って町を出た。違いますか?」

短い沈黙が流れる。

そして、宮司は深く息を吐いた。

「……はい、そうです。」

やはり―― 最悪の予感が的中した。

セリナは拳を強く握りしめる。

「でも、タイムリミットはまだあったはずでしょう!? あと少しで、絵が完成してたのに……!」

宮司は苦しげに口を開いた。

「彼が、私に言ったんです。」

『俺が覚えてる限り、父さんが消えたのはちょうど明日なんだ。

……なら、もう猶予なんてない。今夜、俺がやる。』

セリナは愕然とした。

「慎司が……そんなふうに……?」

宮司は苦しげに頷く。

「私は、彼を止めるべきだったのかもしれません。」

「しかし、慎司さんはすでに覚悟を決めていた。」

「彼は、町のため、そして……あなたのために、自分にとって最も大切な記憶を捧げたのです。」

セリナの足元が、ぐらつくような感覚に襲われる。

「慎司が……私のために……?」

「はい。」

セリナの胸が締め付けられる。

「……勝手に全部背負わないでよ……。」

セリナの目から、涙が零れ落ちた。

アトリエでの発見

神社を後にしたセリナは、沈む気持ちを抱えながら自分のアトリエへと向かった。

慎司が記憶を失った――。

それを知ってもなお、何かできることはないのか。

そんな思いを抱えながら、過去の作品を整理していると、あるスケッチブックが目に留まった。

「……これは……?」

古びた表紙をめくると、そこには 慎司と自分が子どもの頃に並んで笑っている絵 があった。

御神木の樹液を使って描かれた、特別な絵。

「そういえば……慎司と二人であの絵に触れた時……昔の記憶が鮮明に蘇った……!」

「もしかしたら、この絵にも……」

慎司が記憶を捧げる前、この絵を見つめた時にセリナの中に浮かび上がったもの。

それを思い出し、セリナは胸の奥に小さな光が灯るのを感じた。

彼の東京での住まいは知っている。

会いに行って、この絵を見せる。

もしかしたら、何かが変わるかもしれない。

セリナはスケッチブックをしっかりと抱きしめ、強く決意した。

「慎司……必ず、あなたを迎えに行くから。」

そう心に誓いながら、彼女は朝一番の電車に乗るため、駅へと向かった。

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