翌朝、慎司は市場近くの広場でセリナと待ち合わせた。昨日の夕食の後から、彼女がどこか気にかけてくれているのが分かる。それが心強い反面、慎司は自分が抱えている疑問や不安を、まだ言葉にできずにいた。
「おはよう、慎司。早いね。」
セリナが手を振りながら笑顔でやってくる。
「おはよう。セリナのほうこそ、朝から元気そうだな。」
二人はそのまま町の散策を始めた。昔と今を比べながら歩くうち、慎司はふと立ち止まる。
「ここ、まだ残ってたんだな。」
慎司の視線の先には、古びた公園があった。遊具は錆びついていて、子どもの姿も見当たらない。
「懐かしいでしょ?ここ、私たちがよく鬼ごっこしてた場所だよ。」
「覚えてるよ。あのブランコ、昔はもっとピカピカだったのにな。」
慎司はブランコに近づき、そっと手で触れる。その感触に、小学生の頃の記憶が蘇る。

子ども時代の秘密
「ここで、よくお前と喧嘩したよな。」
慎司が少し照れくさそうに言うと、セリナは笑いながら頷いた。
「うん、そうそう。慎司が頑固だから、私も負けじと口喧嘩になって。」
二人の会話は自然と昔話へと広がった。
「あの頃、毎日が冒険だったよな。宿題そっちのけで外で遊んでさ。」
「あの頃はほんと楽しかった。」
慎司はふと、公園の裏手に目をやる。その場所には今でも草むらが広がり、当時の面影がわずかに残っている。
田代優菜との偶然の再会
公園を後にした二人が市場に向かおうと歩いていると、慎司はまた田代優菜の姿を見つけた。彼女は地元の図書館から出てくるところだった。
「よく会うな、お前。」慎司が声をかけると、優菜は少し驚いたように振り返った。
「あ、またおじさん。」
「だからおじさんはやめろって。」
優菜は笑みを浮かべると、慎司にノートを見せた。
「今日は図書館で古い記録を探してたの。楠神社のこととか、町の歴史について。」
セリナが興味を引かれたように身を乗り出す。
「そんなの調べてどうするの?」
「ただの趣味だよ。でも、大事だと思うんだ。この町がどんな風に変わったのか知るのって。」
慎司はその言葉に引っかかりを覚えた。
「どんな風に変わった、か。優菜、お前から見て、この町はどう変わったと思う?」
優菜は少し考え込んだ後、小さな声で言った。
「明るくなったけど、嘘みたいな明るさっていうか……。みんな笑ってるけど、本当の意味で笑ってるわけじゃない気がする。」
その言葉に、慎司もセリナも黙り込む。町の人々が笑顔の裏に何かを隠しているように見えるのは、慎司自身も感じていたことだった。
優菜の提案
「慎司さん、この町の昔のこと、もっと知りたくない?」

優菜が慎司の顔をまっすぐ見て問いかける。その瞳には、不思議な力が宿っているように見えた。
「知りたいよ。でも、どうやって?」
「図書館の奥に、誰も触らない古い記録が残ってる。それを調べるのがいいと思う。私も一緒に手伝うから。」
「……本気か?」慎司は少し驚きながら尋ねる。
「うん。本気だよ。この町には、昔から隠されてることがいっぱいあるんだ。慎司さんなら、それを知るべきだと思う。」
優菜の言葉に、慎司は胸の奥がざわつくのを感じた。自分がこの町に戻ってきた理由が、少しずつ形を成していくような感覚だった。
次への一歩
その日の夕方、慎司はセリナと別れた後、一人で歩きながら考えていた。優菜が言った「隠されてること」という言葉が頭から離れない。そして、自分の父親が失踪する直前に残した「御神木には秘密がある」という言葉が重なる。
「この町で、何が起きてるんだ……?」
慎司は立ち止まり、楠神社がある方向に目を向けた。その場所に、自分が探している答えがあるのかもしれない。そう思うと、足が自然と動き出していた。
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