慎司、セリナ、優菜の三人は、ついに御神木を間近で見てみようという決断をした。観光地化された神社の周辺は訪れる人々で賑わっているが、御神木が立つエリアは立ち入り禁止となっている。三人は神社に向かう途中、祠の話や御神木の伝説について、これまでに集めた情報を再確認しながら進んだ。
神社の風景と御神木の存在感
鳥居をくぐり、長い参道を進むと、慎司たちは荘厳な空気に包まれた神社の本殿にたどり着いた。その背後にあるのが、町の象徴とも言える御神木だ。
「……すごい大きさ。」
セリナが思わず声を漏らした。その言葉通り、御神木は周囲の木々を圧倒するほど巨大で、根元から天に向かって力強くそびえ立っている。
「これが御神木……」
慎司はその姿を目の当たりにし、自然と足が止まった。どこか異様な雰囲気を放っているその木は、ただの植物とは思えない存在感を持っていた。

立ち入り禁止区域の謎
御神木を囲むエリアには、ロープが張られ「立ち入り禁止」の看板がいくつも設置されている。その一角に、祠がひっそりと佇んでいた。祠は古びており、手入れされている形跡はない。
「なんで立ち入り禁止なんだろう?こんなに観光客がいるのに、近づけないなんて変じゃない?」
優菜が不思議そうに問いかけると、セリナが少し考え込むように答えた。
「昔からここは神聖な場所って言われてたけど、それにしても厳重すぎるよね。」
慎司は祠をじっと見つめながら、小さく呟いた。
「祠があるってことは、何かを祀ってるってことだよな。でも、それが何なのかは誰も知らない……。」
圧迫感と異様な現象
慎司たちは御神木にできるだけ近づこうと、ロープの外側から根元を観察していた。しかし、御神木に近づくにつれ、空気がどこか重たく感じられる。風が止んでいるのに、木の周りだけがざわざわと揺れているように見える。
「なんか……息苦しい感じがする。」
セリナが顔をしかめて言った。その声に、慎司も頷く。
「確かに……ただの木とは思えない。この圧迫感、何なんだ……?」
優菜はメモ帳を取り出し、御神木を観察しながら小さな声で言った。
「もしかして、これが『力を感じる』っていうことなのかな……?」
慎司は御神木の根元に目を向けた。そこには複雑に絡み合うような幹の模様があり、よく見ると幹の表面が微かに光を反射しているように見える。
「木が……光ってる?」
慎司がそう言いかけた瞬間、耳元で低い音が聞こえた。それは風が吹く音とも違い、木が何かを訴えかけているような、不気味な響きだった。

観光客との対比
その異様な空気に包まれながらも、少し離れた観光客たちは御神木を背景に楽しそうに写真を撮り合っていた。その光景が、慎司の目には妙に不自然に映る。
「みんな、あの木をただの観光スポットだと思ってるのかな。」
慎司が小さく呟くと、優菜が真剣な表情で答えた。
「うん。でも、本当はそうじゃない気がする。あの木には、もっと深い何かが隠されてる。」
「深い何か……」
慎司は優菜の言葉を反芻しながら、御神木の根元に再び目を向けた。その瞬間、幹の模様が一瞬だけ脈動するように見えた。
新たな手がかり
その後、慎司たちは神社を後にし、近くの休憩所で話し合うことにした。慎司は御神木の異様な空気について言葉を選びながら話した。
「普通の木じゃないのは確かだな。俺も、木の周りで何か音が聞こえた気がする。」
「私も。近づけば近づくほど、なんだか体が重くなる感じがした。」
セリナが同調するように答える。
優菜はメモ帳を開きながら言った。
「昔の言い伝えでは、御神木の力は人々に『幸福感』を与えるって言われてたけど、それって良いことばかりじゃないのかもしれない。」
「どういうことだ?」慎司が尋ねると、優菜は少し考え込んだ後、答えた。
「幸福感を与える代わりに、何か大事なものを奪ってる可能性があるんじゃないかな。」
その言葉に、慎司とセリナは言葉を失った。町の人々が抱える「作られた笑顔」の背景に、御神木の力が影響しているのではないかという疑念が、三人の中で徐々に広がりつつあった。
次へのつながり
その夜、慎司は父親の日記をもう一度開いた。そこにはこんな言葉が書かれていた。
「御神木の力を解放すれば、町に繁栄をもたらす。しかし、力が過剰に使われれば、代償が伴う。」
慎司はその一文を見つめながら、小さく息をついた。
「御神木の力を使った代償……これが、今の町に影響を与えてるのかもしれない。」
慎司は決意を新たにした。次は、祠に隠された秘密を探る必要がある。そこに、町の変化の答えが隠されている気がしてならなかった。
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