慎司、セリナ、優菜の三人は、田代幸太郎から聞いた祠と儀式の話をもとに、次に何をするべきかを話し合っていた。祠に隠された真実を探るためには、まずあの立ち入り禁止エリアに近づかなければならない。しかし、単純に入るだけでは何も得られないという慎司の考えから、計画を練ることにした。
町の異変が広がる兆し
その日の午前中、三人は市場に向かい、住民や観光客の様子を観察することにした。市場は相変わらず賑やかだが、慎司たちは町の空気に微妙な変化を感じ取った。
「ほら、あの人……」
セリナが指差した先には、一人の女性が特産品をいくつも抱えて歩いていた。彼女は笑顔を浮かべているが、その動きはどこかぎこちなく、不自然だった。
「見た目は楽しそうだけど、なんか違和感あるね。」優菜が小声で言う。
「うん……無理に買ってる感じがするな。」慎司もその様子を観察しながら頷いた。
さらに別の店では、中年の男性が蜜菓子を試食しながら店員に執拗に質問をしている。
「これ、もっと強い味にできないのか?もっと効き目がある感じでさ……」
店員は困惑しつつも、営業スマイルを浮かべて対応している。
「効き目って……まるで薬みたいな言い方だね。」
優菜の言葉に慎司も同意した。
「特産品が単なる食べ物じゃなくて、何か依存性を生むものになってる気がする。」
市場を歩く人々の中に、明らかに不安定な様子を見せる人が増えている。それは単なる偶然ではないように思えた。
御神木の圧力を感じる夜
その日の夕方、三人は再び神社へと足を運んだ。観光客が少なくなり、静まり返った神社には、昼間とは違う冷たい空気が漂っている。
「やっぱり、夜になると雰囲気が全然違うね……」
セリナが薄暗い参道を見渡しながら呟いた。
御神木の周囲に近づくと、昼間以上に異様な空気を感じる。木の幹が夜の光に照らされて、不気味に影を落としている。
「なんだろう……胸の奥がぎゅっと締め付けられる感じがする。」
セリナが顔をしかめながらそう言うと、優菜も静かに頷いた。
「私も同じ。近づくほど空気が重くなるみたい。」
慎司は木の根元に視線を向けた。昼間は気づかなかったが、幹の一部が微かに輝いているように見える。そして、その光が幹全体を脈動のように動かしているような錯覚を引き起こしていた。
「……祠が、あの木を封じてたっていうのが少し分かる気がするな。」
慎司は呟きながら、祠が御神木の力を抑える役割を果たしていたことに確信を持ち始めていた。

立ち入り禁止エリアをどう突破するか
三人は神社の裏手に回り、立ち入り禁止エリアのロープを確認した。そのロープは古びているものの、誰も入らないようにしっかりと固定されている。
「これを越えるのは簡単だけど……見つかったら厄介だね。」
慎司が言うと、優菜が少し考え込んだ後で提案した。
「だったら、神社の管理してる人に話を聞いてみるのはどう?私のおじいちゃんが昔宮司だったし、今の宮司さんにも紹介してもらえそう。」
「それはいいな。無断で入るよりも、正規のルートで情報を得たほうがいい。」
慎司が頷くと、セリナも賛成の意を示した。
「それに、宮司さんなら祠や御神木のことも詳しいかもしれないね。」
三人はまず宮司と話すことを決め、その日は神社を後にすることにした。
次へのつながり
その夜、慎司は再び父親の日記を読み返した。そこには、御神木に関するさらなる記述が見つかった。
「祠の封印が綻ぶと、御神木の力が暴走し始める。そしてその影響は、徐々に人々に現れる。」
「暴走……」慎司はその言葉を口に出しながら、祠の状態が町全体にどれほど大きな影響を与えているのかを改めて実感した。
次回は宮司へのアプローチを試み、祠に隠された真実にさらに迫ることになるだろう。慎司の中には、不安と使命感が入り混じった感情が広がっていた。
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